「はい、次の方」

機械的な男の声で、俺の体内の血が一気に冷たくなる。
今日は会社の面接だ。
幾度と無く重ねてきた面接だが、中々慣れないものだ。
「失礼します」と扉を開けると、面接官は面接官の向かいに置かれている一脚のいすに座るように促した。
俺は座る。
どくん、と体が鳴った。
それが合図となって面接がスタートした。

「どうも、磯野と申します」
「えぇっと、現在お仕事は」
「無職です。たまに日雇いのアルバイトを」
「ご家族は」
「両親は亡くなりました。家には妻と子供が一人います」
「そうですか、趣味で特に何か変わったことをしているとか」
「えっと、ボランティア活動を」
「どういった活動を?」
「えぇーそれはー。・・・街のゴミ掃除です」
「ゴミ掃除ですか。わかりました。そちらでしばらくお待ちください」

面接官が立ち上がり、部屋を出て行く。
その姿を見て、俺は「駄目だ」と思った。
無駄に面接を受けている所為か、面接終了の時点で自分が採用されたかどうかがわかるようになってきた。
今回のは「残念ながら・・・」という結果になるだろう。
初心者歓迎、とは書いてあってもこんなくたびれた、何のとりえも無いオッサンなんていらないだろう。
俺は面接官が戻る前に部屋から、そしてこの会社から出た。
携帯電話を取り出し、電話をかけた。
相手は2号。何もかも2号頼りだ。

「もしもし、やっぱり仕事紹介してくれないか?」
『あぁ、いいよ』
「ありがと、無理言って悪いね」
『いえいえ、今からそっちいくよ』
「わかった。じゃあ、まぁ、いつものとこで待ってるよ」
『うん、それじゃ』
「それじゃ・・・」

プツ、と通話終了ボタンを押す。
そして俺はいつもの場所へと向かった。









「よし、それじゃ、後で連絡しておくよ」
「ありがとう」

なんとか職に手をつけられそうだ。
2号には本当に世話になりっぱなしだ。

「いいって、その年で結婚してて無職はまずいでしょ?」

ぴた、と俺は止まった。
昨日の喧嘩を思い出した。最近、気分が落ち込んでいる原因にもなっている、夫婦喧嘩。

「あぁ・・・。実はさぁ、昨日、家内と喧嘩してさぁ・・・」
「え?」

もう、そこから先は止まらなかった。

「地球と家族とどっちが大切なんだって言われたんだ」
「その比較おかしいだろ。なんで、お前そんな典型的“男に嫌われる女”と結婚してるんだよ」
「でも、確かに俺も悪いんだよ。24時間以上家にいることもないし、子供のオシメもミルクとかもやったことが無いし」
「それは問題だな。子供はいくつだっけ?」
「3ヶ月」
「まだ、3ヶ月か」
「あぁ」
「もう少し落ち着いて話あってみたら? ここんところ立て続けだったから、そんな時間もなかっただろ」
「あぁ・・・」

一気に吐き出した俺は気が軽くなったかというと・・・。
問題は解決したわけじゃないので、それを思い知らされて余計に気分が沈むのだった。

「よし!じゃぁ、こんなのはどうだ?」

と、2号が俺の肩を叩いた。
片手にはインカムがあった。いつも持っているのか? 謎だ、謎だが・・・。

「これをつけて俺が言うように話すんだ」
「大丈夫か? ばれないのか?」
「大丈夫。お前が俺の言うように話していれば、全てうまくいく」

この際だ、2号に頼ろう。

「わかった」
「じゃぁいくぞ」

俺たちは喫茶店に向かった。


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